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東京地方裁判所 平成8年(ワ)3741号 判決 1997年9月25日

原告

深谷吉裕

右訴訟代理人弁護士

古谷和久

右訴訟復代理人弁護士

末次弘明

被告

ジェイ・ピー三十六株式会社

右代表者代表取締役

林富雄

右訴訟代理人弁護士

服部弘志

柳井健夫

右訴訟復代理人弁護士

角谷雄志

主文

一  被告は、原告に対し、金二五一五万円及びこれに対する平成七年七月二一日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

三  この判決は仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  請求

主文同旨

第二  事案の概要

本件は、建設予定のゴルフ場の利用を目的としてゴルフクラブに入会する契約をした原告が、当初の開場予定期日を大幅に過ぎても右ゴルフ場が開場されないことが債務不履行に当たるとして、事業者である被告との間の右入会契約を解除し、同人に対して、原状回復請求権に基づいて、入会時に支払った入会金及び預託金合計金二五一五万円の返還とこれらに対する解除の日の翌日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求めている事案である。

一  当事者間に争いがない事実

1  被告は、ゴルフ場の建設、企画及び経営並びにゴルフ会員権の販売、募集等を業とする株式会社である。

2  原告は、平成三年七月三一日、被告との間で、被告が栃木県宇都宮市横山町に建設予定のゴルフ場(名称J&Pゴルフクラブジャパン。以下「本件ゴルフ場」という。)について、左記の内容のゴルフ場入会契約(以下「本件契約」という。)を締結した。

一  会員権の種類 正会員権

二  開場予定 平成四年一〇月

三  入会金 金五一五万円(内消費税金一五万円)

四  預託金 金二〇〇〇万円

3 原告は、右同日、被告に対し、右の入会金及び預託金として合計金二五一五万円を支払い、前項のゴルフ会員権(会員権番号JPC〇一三四)を取得した。

4 しかし、被告は、開場予定を二年八箇月経過しても、本件ゴルフ場を開場しなかった。

5 そこで、原告は、平成七年七月六日到達の内容証明郵便により、被告に対し、本件の開場を催告するとともに、右書面到達後二週間以内に開場しないときは、右期間を経過した時点で本件契約を解除する旨の意思表示をした。

6 本件ゴルフ場は、本件口頭弁論終結時においても、未だ開場に至っていないが、被告は、本件ゴルフ場の開場が遅延する間の代償措置として、原告を含む会員らに対し、本件ゴルフ場完成までの間、被告と同系列の企業が経営する「ウィルソンロイヤルゴルフクラブやさとコース」「ウィルソンロイヤルゴルフクラブましこコース」、「ウィルソンゴルフクラブジャパンいわせコース」の三つのゴルフ場につき、会員同様の資格でプレーできる措置を講じている。

二 争点

本件の争点は、本件ゴルフ場の開場遅延が被告の債務不履行に当たるか否かである。

三  争点に関する当事者双方の主張

(被告の主張)

1 被告は、本件ゴルフ場の開場遅延は次のような理由によるものである。

(1) 被告は、バブル崩壊の影響が深刻化したため、当初の予定の半分以下の会員しか募集できず、その後も、バブル崩壊後の社会情勢の変化に伴って金融機関の融資基準も厳しくなる中、平成三年秋にはゴルフ会員権に関する大型詐欺事件が発生したこともあって、被告の会員募集は事実上不可能となり、資金不足は解消されなかった。

その結果、被告は、平成四年秋ころには、建設工事を縮小し、工事の進行速度も遅くなり、時には工事を中止せざるを得なくなったものである。

(2) また、平成三年一〇月ころ、当初予定していた本件ゴルフ場の進入路について、管轄警察署及び地元地権者らから、交通安全上問題があり、渋滞を生じるおそれもあるので、これを変更するようにとの指摘を受けたため、被告は、右進入路を変更せざるを得なくなった。

右変更後の進入路予定部分は、農業推進地区内の農地であったことから、これを非農地用地とするためには、まず周辺の圃場について地元地権者による土地改良事業を行った上で、当該進入路部分について道路舗装工事を行い、市道への移管許可を得る必要があったが、被告と地元地権者らとの調整は非常に難航し、長期間を要した。

そして、その後の土地改良事業の申請、認可、工事施工の許可も遅延したため、進入路の工事は大幅に遅れることとなり、その結果、右進入路を利用して行われる調整池建設工事及び一部ホールの造成工事が大幅に遅延したものである。

(3) 本件ゴルフ場には、事前の地質調査によっても判明しなかった予想外の粘盤岩地質(ベントナイト)が広く分布していた。

そのため、これらの地質の工事箇所は、好天時は岩盤が硬くて掘削が困難である一方で、雨が降ると地面がどろどろになって工事用車両が稼働できなくなり、雨量が多いときには、荒造成工事の中断を余儀なくされた。特に平成三年七月から一一月ころには長雨が続き、そのため造成工事はさらに遅延することになったものである。

2 被告は、前記のとおり、会員に対して本件ゴルフ場の開場遅延に伴う代償措置を講じており、原告も、現にこれを利用している。

3 預託金会員制度のもとでは、入会金及び預託金がゴルフ場建設の主要な資金であるので、一部の会員につきゴルフ場の開場遅延を理由とする入会契約の解除が認められると、他の会員からも入会金及び預託金の返還を迫られて、事業者は倒産に追い込まれ、ひいては会員権が無価値となって多くの会員の権利が侵害されることになる。

したがって、近い将来ゴルフ場の開場が見込まれる場合には開場遅延を理由とするゴルフ入会契約の解除は制限されるべきであるところ、本件ゴルフ場は、平成九年一〇月一日には正式オープンの予定である。

4 以上のとおり、本件ゴルフ場の開場遅延は、被告の責に帰すべき事由に基づかない、やむを得ない事情によるものであること、前述のような代償措置も講じられていること、契約解除が認められた場合の影響が大きいことなどを考慮すれば、本件開場遅延は、入会契約上許容されるべき範囲のものであり、債務不履行には当たらないというべきである。

(原告の主張)

1 事業遂行のための資金調達は、事業者が適切な予測をすれば解決できる問題であり、資金不足はゴルフ場の開場遅延を正当化する事由にはならない。原告が入会した平成三年七月ころには、既にバブル経済の崩壊による深刻な状況は到来しており、被告はそれらを十分承知のうえで本件会員権を原告に売却したものである。

また、被告の主張1(2)、(3)記載の事実があったとしても、それらは、ゴルフ場建設工事に通常伴う事情であり、ゴルフ場の開場予定時期はそれらも考慮に入れたうえで設定すべきであるから、右事情も開場遅延を正当化する理由にはならない。

したがって、本件ゴルフ場の開場遅延は、いずれも被告自身の責に帰すべき事由によるものである。

2 ゴルフ場入会者は、入会した当該ゴルフ場でのプレーを目的として入会しているのであるから、他のゴルフ施設の利用を提供したとしても、右目的に代替することはできない。

そもそも、被告が主張するうち「ウィルソンロイヤルゴルフクラブましこコース」については既に原告は会員であったものであり、この点では、右措置は、何らの代償措置にもなっていない。

3 本件ゴルフ場は、本件の口頭弁論終結時においても未だ開場されておらず、正式な開場時期も決定されていない。

4 ゴルフ場の建設事業の性格等から、一般的に、会員がある程度の開場遅延を受忍すべきであるとしても、本件のように原告が解除の意思表示をした時点で開場予定時期を二年八月以上も経過した場合は、その限界を超えており、被告に債務不履行責任があることは明らかである。

第三  当裁判所の判断

一  本件ゴルフ場は、本件契約時には平成四年一〇月の開場が予定されていたものであるが、実際には、開場は右予定より大きく遅延し、原告が催告の期限とした平成七年七月二〇日はもとより、本件口頭弁論終結時(平成九年七月二四日)においても、未だ開場に至っていないものである。

ところで、ゴルフクラブに入会する主たる目的は、当該ゴルフ場の施設等を会員として利用することにあるから、建設中のゴルフ場の開場予定時期は入会者にとって大きな関心事であり、入会するか否かを判断するに当たっての重要な考慮要素の一つであるということができる。しかし、他方、ゴルフ場の建設は、広大な用地の取得や莫大な資金とを必要とするうえ、各種の法令上の制約や事実上の障害が多く、用地の買収、行政庁の許認可の取得及びゴルフ場の建設工事等に相当長期間を必要とし、これらの過程において当初予想できなかった事情が生じることも少なくないのが一般的であって、こうしたやむを得ない事情によってゴルフ場の実際の開場が予定時期よりも多少遅れることがあることは、入会しようとする会員の側でも通常予想しているところである。

したがって、ゴルフ場の開場が入会契約において予定されていた時期よりも遅延したとしても、その遅延の原因が事業者の側において通常予想できなかったものであり、かつ、その間の会員らの不利益を考慮にいれても右遅延が社会通念上相当として是認できる範囲内のものであれば、事業者は履行遅滞の責を負わないが、そうでない場合には、履行遅滞の責を免れないと解すべきである。

二  そこで、まず原告が本件契約を締結した事情等をみると、甲八号証(原告の陳述書)によれば、次の各事実が認められる。

(1)  原告は、平成二年九月ころ、被告と同系列の会社が経営する「ウィルソンロイヤルゴルフクラブましこコース」の会員となった。

(2)  原告は、その後、本件ゴルフ場の会員権を販売していた日本広販株式会社の販売員から、本件ゴルフ場は、ジャック・ニクラウスの設計によるもので、宇都宮インターチェンジからすぐ近い場所にあること、開場予定は平成四年一〇月であるが、予定どおりの開場の見込みであることの説明を受けて、入会を勧誘された。

(3)  「ウィルソンロイヤルゴルフクラブましこコース」がインターチェンジから遠いことに不便を感じていた原告は、右ゴルフ場がインターチェンジの近くで交通の便がよいうえ、ジャック・ニクラウスの設計によるものであること、開場まで約一年程度であることなどに惹かれ、入会を決意して、本件契約を締結して入会金を支払った。

(4)  その際、原告は、入会に必要な資金二五一五万円全額を三六〇回の分割返済の約定で銀行から借り入れたため、その後、現在に至るまで毎月約一〇万四〇〇〇円を銀行に返済している。

三  ところで、被告は、原告を含む会員に対し、開場遅延の代償として、平成五年四月一日から同系列の企業が経営する三つのゴルフ場で会員と同様の資格でプレーできる措置を講じていることは前記のとおりであるが、ゴルフ会員権取得の目的は、当該ゴルフ場でプレーすることにあり、現に本件原告の場合も、本件ゴルフ場までの交通の便やコースの設計に惹かれて本件契約を締結したことは前記認定のとおりである。

したがって、右代償措置は、あくまで開場遅延による会員の不利益を暫定的に緩和する措置をとったことが、前記の開場遅延の相当性を判断するうえでの一つの事情となるにすぎず、これをもって直ちに債務不履行の責を免れることはできない。

なお、本件においては、当審における和解手続の過程で、被告から、同系列のゴルフ場への転籍も提案されたが、原告が被告の提案した複数の案の中から「ウィルソンロイヤルゴルフクラブやさとコース」を含む提案を選択して交渉しようとしたところ、被告は当初の提案を翻して右のコースを提案の対象から除外したため、右の転籍についての協議は進展しなかった(当裁判所に顕著な事実)。

四  次に、本件ゴルフ場の右開場遅延の原因について検討する。

1  被告は、その主要な原因として、資金不足、進入路変更の必要が生じてそのための関連工事に長期間を要したこと、本件ゴルフ場用地の地質に問題があったことの三点を挙げる。

2  そこで、これらの点について順次検討するに、各項末尾掲記の証拠によれば、次の各事実が認められる。

(1) 資金不足について

ア 被告は、当初、本件ゴルフ場の建設には、土地取得費用三二〇億円、土木工事費六五億円、クラブハウス建築費一五億円の合計四〇〇億円の資金が必要であると設定し、そのうち三九〇億円を一三五〇名の正会員と四〇〇名の平日会員を募集することによって集める予定にしていた。しかし、実際には、思うように会員権の販売ができず、募集できたのは、正会員六一一名、平日会員五六名にとどまり、あつまった入会金及び預託金は合計で約一二〇億円強にすぎなかった。

(乙三七、弁論の全趣旨)

イ そして、右のように集まった資金のほとんどは用地の取得費用に充てられたため、事業資金が不足し、平成四年秋ごろには、資金不足のために造成工事は縮小されて速度も遅くなり、ときには一時的に工事を中止せざるを得なくなる事態も生じた。

(乙三七、弁論の全趣旨)

ウ しかし、その後も、本件ゴルフ場の建設事業は、金融機関からの借入れやグループ企業の応援、造成工事施工業者の協力等によって継続され、現在に至っている。

(乙三七、弁論の全趣旨)

(2) 進入路の変更について

ア 当初、計画されていた本件ゴルフ場への進入路は、既存の道路を拡幅して利用することが予定され、これを利用するときには、国道一一九号線方向から来た車両は、いったん五三四号線との交差点を左折して同線に入った後、まもなく右折して右進入路に入るというクランク状の進行をする必要があった。

(乙三二、同三八、証人宮澤史仁)

イ そうしたところ、平成三年一〇月ころ、右計画を変更して、国道一一九号線とまっすぐに接続する進入路を当時農地であった地域に新設する話が持ち上がり、被告と右の新たな進入路予定地の地権者らとの間で協議が開始された。

(乙三二、同三八、証人宮澤史仁)

ウ その結果、右地権者らが被告の費用負担で右土地周辺の農地の土地改良事業を行い、これによって右道路予定地を道路として整備することとなったが、右土地改良事業の認可申請は平成四年七月になって行われ、右事業の施行が認可され、換地事業及び道路舗装等の各工事が完了して、右道路の宇都宮市への移管が終了したのは平成六年九月一九日であり、右道路の使用許可がなされたのは、平成七年に入ってからであった。

また、右のような進入路の変更に伴い、進入路を利用して行う予定であった調整池の工事や駐車場、ゴルフコースの一部の工事、クラブハウスの建設工事等も行われなくなった。

そして、その後、右進入路の完成した後の平成七年夏ころから、これらの工事がようやく順々に着手されるようになり、平成八年一二月二四日には、都市計画法二九条の規定による開発許可について工事の検査済み証が交付される段階まで進んだ。

(乙七ないし三〇、同三二、同三八、証人宮澤史仁)

エ ところで、被告は、右のような進入路の変更は、管轄警察署及び地元地権者らから、当初利用が計画された既存道路を利用する方法では、交通安全上問題があり、渋滞を生じるおそれもあるので、これを変更するようにとの指摘を受けたためであると主張し、証人宮澤史仁もその証言中及び自ら作成した陳述書(乙三八)において、右主張に沿った陳述をしている。

しかし、このような要請がなされたことを裏付ける客観的な資料は何ら提出されていないだけでなく、甲一一号証によれば、地元地権者らである増淵定市は、原告訴訟代理人からの電話による事情聴取に対し、新しい進入路の話は地権者らの方ではなく、被告の方から言い出したものであると回答していることが認められる。

そして、右変更によって、被告は本件ゴルフ場への入場が格段に容易になるのに対し、地元地権者らは、現に耕作中の農地が分断されるなど被る不利益が少なくないこと、被告は、平成四年一〇月当時、会員に対して、右進入路変更の目的は、より便利な路線に変更して本件ゴルフ場のグレードアップをはかるためであると説明したうえ、右土地改良事業の費用も被告において負担していることなどの諸事情に照らせば、前記宮澤史仁の右陳述は容易に措信できず、むしろ、進入路変更の話は被告の方から地権者側に持ちかけたものと認めるが合理的である。

(3) 用地の地質上の問題について

本件ゴルフ場用地には、雨が降ると非常に粘性が強くなるベントナイトと呼ばれる粘盤岩地質が多く含まれており、そのために、大雨のときには工事中のゴルフ場用地がどろどろとなり、重機を動かすのに支障を来し、特に、平成三年七月ころの全国的な長雨の際には、造成工事が停滞した。

(乙三七及び証人宮澤史仁)

(4) 以上のとおり、被告の主張する各事由は、そのいずれもが本件ゴルフ場建設工事を遅延させる原因となったことが認められる。

しかし、右に認定した遅延の状況及び乙三七号証、同三八号証、証人宮澤史仁の証言並びに弁論の全趣旨に照らせば、そのうち、用地の地質上の問題による遅延は主要な原因とまではいえず、資金不足による事業の停滞と進入路変更による関連工事の完成に長期間を要したことが前記の大幅な開場遅延の主な原因であると認められる。

3(1)  ところで、右の資金不足について、被告は、会員が予定どおり募集できなかったのは、いわゆるバブル経済の崩壊と平成三年秋に発生したゴルフ会員権に関する大型詐欺事件の影響によるものであり、これらは予想不可能なものであったと主張するが、会員の募集が予定を大きく下回った原因が右の各事由によるものであることを認めるに足る証拠はない。

仮にその原因が被告主張の右各事由によるものであったとしても、そのことは、被告の資金調達についての予測ないし期待がはずれたというにすぎず、被告は、原告との間で本件契約を締結した以上、右のような事由があったとしても、自らの責任で必要な資金を調達し、ゴルフ場建設事業を完成させて、原告に提供を約した施設の利用を実現すべき義務を免れないというべきである。

(2) また、進入路の変更が、地元地権者らからの要望に沿ってやむなく実行したものとは認められないことは前記のとおりである。

そして、土地改良事業を新たに行い、その完成を待って、新たな道路を建設し、さらにこれを市道に移管するという手続を経るには、それぞれの各段階における許認可を得たり、各工事を行ったりするための期間として、相当の年月を要することは、事業者である被告において、十分予想することができたことがらである。

(3) さらに、用地の地質上の問題についても、このような点については、事業者において、工事着工前に十分な調査をなすべき事項であり、また、仮に着工後に初めて明らかとなったとしても、原告と本件契約を締結した時期までには、その影響がどの程度に及ぶのか予想できたはずである。

五  そこで、以上の諸事情を踏まえて検討すると、本件ゴルフ場の開場予定時期から原告の解除の意思表示の時までの遅延の原因は、いずれも、被告において予想できなかった事由によるものとはいえないし、また、遅延の期間も二年九箇月と相当長期に及ぶものであり、被告が前記のような代償措置を講じていることを考慮に入れても、右の開場遅延は、社会通念上相当として是認できる範囲を超えているといわざるを得ない(ちなみに、本件ゴルフ場は、その後さらに二年を経過した本件口頭弁論終結時においても、未だに開場に至らない。)。

したがって、本件ゴルフ場の開場遅延は、被告の債務不履行に当たるというべきであるから、本件契約は、原告の行った解除の意思表示により、平成七年七月二〇日に有効に解除されたものと認められる。

なお、被告は、開場遅延による解除が認められた場合には、他の会員に与える影響が大きいから、ゴルフ場の開場が近い将来に見込まれる場合には、開場遅延を理由とする入会契約の解除は制限されるべきであり、本件ゴルフ場についても、平成九年一〇月一日には開場可能であると主張する。しかし、被告主張の時期に確実に開場が可能であると認めるに足る証拠はないのみならず、解除事由の有無は、原則として解除時を基準に判断すべきものであるから、右の主張は採用しない。

六  以上によれば、原告の本訴請求は理由があるので、これを認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を、仮執行宣言について同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官市村陽典)

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